野村哲也ロングインタビュー

  「心を取り戻す戦い」をしているというところから
     "ソラ"というキャラクターにたどり着きました。




●キングダムハーツU開発物語「ディズニーキャラを生み出す」ということ

――「キングダムハーツU」(以降『KHU』)がいよいよ発売ということで、おめでとうございます。
野村:ありがとうございます。
――開発期間はどれくらいですか?
野村:『KH−FINALMIX−』『KHチェインオブメモリーズ』(GBA)が途中に入って、
2年と数ヶ月。企画をねってる時間を合わせて・・・ひょっとしたら、『キングダムハーツ』(以降『KH』)よりも
短い時間で出来上がったかも。そう考えると、なんかあっという間だった気がしますね。
――『KH』を作られた時には、ディズニーからゲーム製作の依頼がスクウェア(現:スクウェア・エニックス)にあった時に
「やってみたいことがある」と野村さん自らが手を上げられたと伺っているんですけれど、
「ディズニーのゲームを作りたい」と思われたんですか?

野村:「ディズニーだから」というわけではないです。新作ゲームの企画として
ゲームシステムを先行して考えていて、そのシステムで作るゲームの題材を探している時に
「ディズニーで」というお話が、たまたまあったんです。
自分の企画にディズニーをあてはめて考えたら「あれ?すごい面白いゲームができるんじゃない?」と。
最初に「ディズニー作品を題材にゲームを作りましょう」と考えていたら、
「普通のディズニーのゲーム」になったかもしれません。
――ディズニーキャラが主人公で、ディズニーキャラだけが登場するという・・・。
野村:ディズニー側としては「ドナルドダックが主人公のゲーム」という考えもあったんです。
でもディズニーのキャラクターというのは世界的に有名なキャラクターなので、
「これがゲーム中の自分の分身(プレイヤーキャラクター)です。感情移入してください」、と
言われても無理な話だと思うんです。そこは、その作品の新しい主人公、という風にしたほうが感情移入しやすい、
ということで『KH』の主人公は新規のキャラクターでいきたい」と、ディズニー側に提案したんです。
――大胆な提案ですよね。
野村:自分もドナルドダックはすごく好きなキャラクターなんですが、「はい、あなたはドナルドです」と言われても、
やっぱりドナルドはドナルドだし(笑)、自分の分身としては考えられない。数十年という「ドナルド」の歴史がありますからね。
そこをディズニー側に説明して、提案を受け入れてもらったんです。
――世界のディズニーですから、いろいろと大変だったのでは?
野村:そんなこともないですよ。より良い作品を作りたいと思うがゆえに厳しい面も多々ありますけれど、
面白いゲームを作りたいという根本的なところは一緒なわけで。
そこを説明すればわかってもらえるだろうと思って、ひとつひとつ丁寧にプレゼンしました。
そのうち、あれもこれもと無茶も言いましたけど(笑)。
――シリーズに登場する、ソラやリクやカイリたちは、スクウェア・エニックスのキャラではなくて、
ディズニーのキャラなんですよね。つまり、野村さんは「新しいディズニーキャラクター」を生み出したと。

野村:結果的にはそうなっちゃいましたね。最初はうれしかったですけど、
だんだん愛着がわくもんで、惜しくなったりします。「よその家の子になっちゃたな」みたいな。嫁に出すような気分(笑)。
――ディズニーキャラを生み出すというのは、偉業ですよね。
野村:最初はやっぱり、すごい光栄だな、とは思ってたんですけれども、実際に作り出しちゃえば、
そこはそれほど重要なことではなくて。今まで他のゲームを作ってきた感覚とあまり変わらないですね。
『FF』シリーズのキャラクターと同じ感覚です。結局、自分が『FF』のキャラを描いたとしても、
それは自分だけのキャラクターではないわけで。製作に携わっている皆、例えばソラのモーションをつけた人とか、
ソラにテクスチャーを貼った人とか、バトルを考えた人とか、色んな人がソラに関わっているんですけど、
みんながソラを我が子のように思ってます。そう考えるとディズニーキャラを生み出したというより、
いつものようにゲームを作ったって感覚に近いですね。
――たまたまディズニーという相手がいたけれども、ゲーム作りとしては変わらないと。
野村:スクウェア・エニックスで作っているゲームより親が多いですけど(笑)。

●バイオレンスとは無縁のヒーロー、ソラというキャラクターが誕生した時

――『KH』の核であるシリーズの主人公『ソラ』が生まれてきた経緯は?
野村:「ディズニーの色々なワールドに行って、バトルをする」ていうゲームの形式に対して、
「主人公は何故戦うのか、その理由が必要です」とディズニー側に言われたんですね。
そして「見た目がバイオレンスになってはいけない」と制約があって。
その制約と、ゲームのシステムを考え合わせて導き出したのが、今の「キーブレード」で戦うということなんです。
命を奪うために戦ってるんじゃなくて、「心を取り戻す戦い」をしている・・・というところから、
ソラというキャラクターにたどり着きました。
――なるほど、単にストーリーだけからでも、システムからだけでもなく、
色んなところが交じり合って出てきた答えがソラだと。

野村:そうですね。デザイン的にはソラが決まれば、あとはすんなり流れていきましたね。
初めてソラのデザインをディズニー側に見せた時は、「それはディズニーのキャラクターらしくない」という意見を言われて、
その時は、朝までああだ、こうだ、っていうせめぎあいをしました。話し合いの中で、
頭の中でだんだんイメージを組み立てていたので「わかった、明日、描いてくるから、それを見てくれ。
それだったからきっと気に入るから」って言って。それで持っていったのが、今のソラのデザインでした。
――その「初めてのソラのデザイン」ってどういうイメージだったんですか?
野村:まったく違うってわけではなくて、要はデザインの「ライン」の問題なんですね。
例えば、実際のパンツ(ズボン)ってラインがストンとまっすぐ落ちてるじゃないですか。
でもそれではダメなわけです。ソラは元々短パンなんですけど、短パンでストンというラインではダメだと。
それで、今のふくらんだ感じのシルエットが生まれてきました。「ダボっとしているパンツ」を直線的に描いても、
デフォルメとしては成立するんですけど、「膨らんでしぼんで」みたいな、
カーブがいくつもあるようなラインを出してくれということなんです。
――「ディズニー流のデフォルメ」が存在するっていうことなんですね?
野村:そうですね。それで主人公だけはそのラインに乗せてくれと。リクとカイリに関しては
そんなに大きく口出しするつもりはないけども、ソラに関してはディズニーらしさを出して欲しいということで。
――ドナルドとグーフィーは、衣装だけで世界観が表現されているわけですよね。
野村:当初は元々のディズニーコスチュームでいく予定だったんです。でも、ソラの衣装を見たディズニーの方から
「せっかくソラがこういうデザインになるんだから、それに合わせたデザインにしてみてはどうか?」という提案をいただいて。
なるほど、変えちゃっていいんだと(笑)。じゃあソラのデザインに合わせた服を用意してみますということで見せたら全然普通に一発OKでした。
――そんなこんなでハロウィン・タウンみたいに、物凄くいじくったものも出てくるわけですね。
野村:最初に描いたのはもっと強烈だった(笑)。もっと「ナイトメアー」っぽいというか、
ティム・バートンっぽい感じに描いていたんです。ドナルドももっと強烈に描いたんですけど、
これはさすがに怖いんで勘弁してもらえないかって(笑)。もうちょっとまぁ、ディズニーの本来のラインによせた
デザインに直したんです。ディズニーの人達も大爆笑でしたけどね。だけどちょっとこれはやりすぎです、っていう(笑)。
――ディズニーのやり取りはかなり大変でしたか?
野村:いや、一作目の時にソラのデザインで朝までもめたくらいで、あとはそんなにもえることはなかったですね。
ある程度は信頼して任せていただいてるって部分もありますし。
あとは、僕が引かないので(笑)。ダメ出しされても、「それはこういうことだから」という具合で、
ディズニー側にも「野村って引かないな」って思われてるんで、そこら辺は大目に・・・
というか許容範囲を大きくしてみてもらっていると(笑)
――もともと、引かない性格なんですか?
野村:いや、わがままは言いますけどね。『KH』のディレクターを引き受けた以上、
責任は自分にありますから、自分が良くない、自分が気に入らないものは作りたくないんです。
これがいい、ベストだと思って提示しているものが、自分がベストだと思わないものになっちゃうのは、
やっぱり作品として良くない。自分が責任を取る以上、主張は通す、ということです。

●『KHの作品を支えるものたち』新登場のディズニー&『FF』キャラクター

――今回は、ディズニーのキャラクターもさらにでてくるわけで、ついには「パイレーツ・オブ・カリビアン」も出てきますよね。
実写映画のキャラクターを起用するというのも、かなり斬新だと思うんですけれども。

野村:ディズニーの作品って色んな作品があるんです。例えば「アルマゲドン」もディズニー映画ですし、
「パールハーバー」のような戦争映画もあります。さすがになんでもかんでもOKというわけでもないんですけど、
2作目ってことで、1作目の「ナイトメアー」よりも大きなサプライズをなにか用意したかったんです。
海外で『KH』が発売された頃に、「パイレーツ・オブ・カリビアン」が上映されたんです。
これはかなりインパクトあるんじゃないかと。「こんなのってどうかな?」ってディズニー側に言ってみたら、
「ないことはないんじゃないかな」みたいな感じだったんで、どんどん押していったんです(笑)
――それと並んで「トロン」にもびっくりしました。
野村:そうですね。1作目が終わった時に「しまった!『トロン』もあったよ!
『KHU』が作れるなら絶対入れたい!」と思っていたんですよ。そしてその時にソラやドナルドとグーフィーが
「トロン」の衣装になった姿ってのを頭で想像したら、ビジュアル的にすごく面白くなるだろうなって。
世界観も独特ですし、次があるなら絶対やろうと決めてました。
――さらに今回は、モノクロの世界まで登場しますね。
野村:そうですねぇ。いつかはやりたいとは思ってたんですけども、ウチのスタッフの方から
「モノクロがやりたい」って強い要望が出まして。社内でも、オールドのタイプのミッキーが大好きだと言う
スタッフが多かったんです。
――モノクロの世界ではソラのデザインもかなりオールドタイプになりますね。
野村:オールドタイプのミッキーとかドナルド、グーフィー、ピートもそうなんですけど、
「蒸気船ウィリー」の頃のデザインって、黒目が本当に真っ黒なんです。
でもソラには「パイカット」っていう切れ込みが入ってるでしょ。パイカットが入ってるミッキーが出てくるのは
実はそれよりももうちょっと後になるんですよ。でも、ソラを黒目にしちゃうと、どうしても可愛くならなかったんで、
そこはちょっと変更をして(笑)、ソラだけパイカットにさせてもらったんです。
――今回はディズニーだけでなく、『FF』のキャラクターも多々、登場しますね。
野村:そんなに増やすつもりはなかったんですけど『KH』の時の反響がとても大きくあったんです。
『FF』のキャラクターがこういうパラレルな世界に出てくるって喜んでいただけました。
あれもこれも入れて欲しいという要望が多くて、特に多かったものをどんどん足していったら、多くなっちゃったんです。
『\』のビビを出して欲しいという意見もすごく多かったですし、「スコールが出るんだったら、サイファーも出してよー」とか。
『]』が出たばかりだったので、アーロンを出して欲しいとか。
もう一回別の世界で生きているあのキャラクターに会いたいという意見を聞いて、こういうチョイスになりました。
でも元々『FF』キャラクターはゲストキャラですので、数はいっぱい出てますけど
出番はディズニーキャラに比べたら多くないです。

●最新作の原点を探る『FFZ』作品群の魅力

―『FFZ』が97年に発売されて以来、8年。
いまだにすごく人気があって、「コンピレーション」という作品群で、ついに新作として蘇りました。
どこにその人気の秘密があるんでしょう?

野村:『Z』を作っている時、自分たちにとっても、新世代のゲームを作っているという感覚が大きかったんです。
それまではドットの、いわばファミコン時代からの流れのゲームを作っていたんですけど、『Z』のときは一大変換期でした。
それまでとガラッと変わっていって、自分たちもゴールが明確にわからなかったんです。手探りで、でもやりたいことがいっぱいあって。
当然それまでの『FF』の作り方という文法の基づいて作っているんで、『FFZ』以降の『FF』と『Y』以前ものが
融合したものになってるんですよ。『Z』というのは新しいものと古いものがぶつかってできたんです。
恐らく、「新しいもの」としてのインパクトが、ファンの方々にも大きかったんじゃないでしょうか。
印象が凄く強かったのかなと。
――なるほど。クラウドにエアリス、ティファといったキャラクターも印象に強く残りますね。
野村:おそらくあの頃のRPGを作っていたスタッフたちは、それまでのRPGに飽きてたんですよ。
必ず悪い奴がいて、それを倒す勇者が現れて・・・みたいなお約束の文法がいやになっていて。
タブー視されていたことをやってやろうというのが強かったんですね。
弱い主人公、ヒロインは不幸な身になっていく、そういう今までやらなかったことが起こったからでしょうね。
――言ってみれば、ファンタジーなんだけどリアリティもあってと・・・。
野村:そうですね。「リアルなキャラクター」っていうのは、見た目の問題ではなくて、「存在感」としてリアルなキャラクター。
そんなキャラを作りたかったんです。単なる記号としてのオブジェクトじゃなくて、そこに確かに存在してるっていう。
虚構の中にもちゃんと存在感があるというものをやってみたかった。
――そういうこともあって、今でも生き生きとしてるんですね。
野村:そうですね。だから、そこは成功だったんだろうなと思います。彼らは確かに生きていたっていう感覚になっていると。
――これから出てくる『ダージュ オブ ケルベロス』(以下DC)は、ヴィンセントが主人公で、しかもアクションゲームですね。
野村:『Z』のディレクターだった北瀬が、プロデューサーになって以来久しぶりに本腰入れて現場にやってきた、
みたいな作品になってます。ジャンルとして今までRPGばかり作っている北瀬ですけれど、
実はFPS(ファーストパーソンシューティング)がすごく好きなんですよ。まだ国内でそんなに流行ってない頃から
「絶対にくる」って言ってて。絶対にFPSは作らないとダメだって。で、とうとう本格的にやるとなった時に、
そのキャラクターに関しての相談があったんですよ。何を題材にしてやろうか悩んでるんだけどって。
ちょうど『アドベントチルドレン』(以下AC)と『ビフォアクライシス』(以下BC)が走っていた頃だったんで、
『Z』キャラのヴィンセントでいいんじゃないかという話になりました。
――うまく流れが出来たんですね。
野村:RPG人口が多い日本では、FPSというとちょっと敷居が高くなってしまい、ユーザー数も少ない。
でもどうにかしてやってもらいたい、と。じゃあどういう世界観、どういうキャラクターでやったら遊んでくれるんだろう、って悩んでいたんです。
だとしたら今やっている『AC』、『BC』の流れで、興味を持ってもらえる『Z』という入り口を用意するべきではないかと。
――そういう意味では、今までのFPSに比べて、信じられないほど女性比率が上がりそうですね。
野村:そうなんですよね。いいゲームを作っても、興味を持ってもらえないと結局はどうしようもないんで。
とっかかりとしてちょっとでも興味を持ってもらえたら、ガンアクションシューティングだって決して特異な分野じゃなくて、
やれば楽しいでしょっていうところを示したかった。RPGだけがゲームじゃないんだよと。

●土佐っぽからクリエイターへ!デザイナー野村哲也誕生「秘話」?!

――デザイナー・野村哲也さんは、どんな風にしてここまで凝られたんでしょうか?
子供の頃ってどんな子供でした?ご出身は高知ということですが。
野村:たぶん普通の子でしたよ。美術は好きでしたけど。
――絵を描き始めたきっかけは?
野村:両親が共働きだったので、スケッチブックを渡されて・・・遊んでろって言われてたような気がします。
その頃ってTVゲームもなかったですし、両親が帰ってくるまで絵を描いて遊んでいたという。
でもまぁ普通に外で友達と野球したしりましたし、夏になれば目の前が生みでしたから、で泳ぎにいったりしましたし。
絵のほうは好きでちょこっと描いていたくらいな感じですね。
――その頃、どんな絵を描かれていたんですか?
野村:学校の授業中にずっと漫画を描いていたりはしました。
――教科書の端にパラパラ漫画を描いていたり?
野村:いや、普通に漫画を描いてましたね、コマ割りの。
授業通に描いた漫画を休み時間になるとみんなに回して、続きは次の休み時間(笑)とかですね。
――子供の頃に好きだったアニメや漫画は?
野村:あー、高知は田舎なんで、近所に本屋もなかったですし、TVもねえ、
チャンネル2つしか、アニメもそんなにやってなかったですし・・・。
みんなが小さい頃にこういうアニメをみた、ああいうのを見たって話が出るんですけど、全然かみ合わないんですよねぇ。
高知ではやってなかったんだよねえー(笑)。それでも、松本零士さんなんか好きでしたね。「リンかけ」(漫画「リングにかけろ!」)世代ですから。
でも、「男坂」がああいう形で終わっちゃってショックでした。「俺はまだ、男坂を登り始めたばかりさ」とか、いまだに言ってますけどね(笑)。
で、中学生の頃からは上条淳士さん。そっからは、もうその路線が好きになって、今に至ってます。
――『TOY』(漫画家上条さんの代表作)ですか。
野村:TOYですねぇ。衝撃を受けて、なんじゃこりゃあ!と。
――(笑)。それから18の頃に上京されて、デザインの専門学校に入学。その時にはもう将来の方向性が・・・。
野村:いやー、決まってなかったですねえ。雑誌とか、広告とかそういう仕事がしたいなぁとは思ってましたけど。
そんぐらいしか。でも何やっていいかわからないので、とりあえず専門学校入って、2年間考えようかなと。
――スクウェアに入社されたのは91年で当初は『FFW』のでバックスタッフだったとか。
野村:開発として入ったんですけれども、すぐには仕事がなかったんで、「デバックやってろ」って言われて(笑)。
やはり新入社員なのでね。スーツ姿でデバックやってました(笑)。さすがにスーツは着てこなくていいよって言われましたけどね。
――そもそもスクウェアに入ったきっかけは?
野村:単純に言えば天野吉孝さん(イラストレーター、画家。初期『FF』のキャラクターデザインなども手がける)のファンだったことですね。
高校の頃、おもちゃ屋さんでバイトをしていたので、スクウェアの社名は知っていたんです。で、たまたま見ていた就職情報誌に
天野さんの絵とスクウェアの求人が出てたんです。いくら絵の仕事がしたいからといって、自分の絵でいきなり飯が食えるほど甘いもんじゃないわけで、
だとしたら自分が好きな人の絵をドット絵に落とす、そんなという仕事だったら楽しいのかなあと。そう思って受けたんです。
――『FFW』のデバックに始まり、『X』や『Y』ではモンスターのデザインをやられてますね。
野村:『Y』では、チビキャラといわれる横向きのキャラクターの元を描いたんです。
――で、『Z』で本格的にキャラクターデザインを全面的に担当されるわけですね。その間にもかなりの作品に関わられているんですよね。
『スーパーマリオRPG』(SFC)なんかもやられてらっしゃったとか。
野村:ちょっとパロディで『FF』っぽいモンスターを出したいから、ってことで『FF』のモンスター描いてるんだから描いてよ、そんな感じです。
――『ライブアライブ』では土佐弁の監修もやられたという・・・。
野村:それはまぁ、坂本竜馬が出てくるんで、ちょっと土佐弁がおかしくないか、見てよってだけですよ(笑)。
――『FF』『KH』シリーズ以外で、特に印象に残っているお仕事はなんですか?
野村:それぞれ、思い出はあるんですけどねえ。『クロノトリガー』(SFC)で最初で最後なんですけどBG(背景)を手伝って、描いたことですかねぇ。
あとは『フロントミッション』(SFC)も描きました。
――野村さんと『フロントミッション』ってあんまり結びつかないですよね。
野村:そうなんですけどねぇ。天野さんの絵をゲーム中に取り込もうとしていたんですけれど、なかなか上手くいかなかったんです。
で、天野さんの絵を模写して書き直していったんでですね。まぁ何人かでやったんですけど、自分が主人公とかライバルあたり、
結構メイン級をまかされていて。一部原画のないものは、オリジナルで描き起こしたりもしていました。

●プロを目指す人へのアドバイスゲームのイラストを描くという仕事

――イラストでご飯を食べていこうと思ったら、まずどうするべきなんでしょう。
野村:そうですねえ、もしイラストを描くことだけで食べていきたいんなら、ゲーム会社には来ないほうがいいですね。
僕は自分をイラストレーターだとは思ってないですし、仮に僕が入社の面接に立ち合ってたら、
「ゲームを作りたいんですか?イラストを描きたいんですか?」と聞きますね。「イラストを描きたい」という答えなら、
たいがい取らないんです。ゲームを作りたい人が来る会社がゲーム会社。イラストが描きたい、という人が思い描いているような仕事は無いんですよ。
たまたま、自分はキャラクターデザインをして宣伝用のイラストを描き起こす作業はしてますけど、それは「イラストを描く」という前提ではなく、
「ゲームを作る」のが前提なんです。ウチの会社でイラストだけを描いているという人はいないんですよ。もし目指すものがイラストレーターだとしたら、
ゲーム会社に就職しないほうが自分のやりたいことが出来るんじゃないかと思いますよ。
――なるほど、ではゲームのキャラクターを生み出すにはどんな人が向いているのでしょう?
野村:ゲームでは大勢の人とひとつの作品を作ります。キャラクターも大勢の人で作っていくきます。
ですから、単に自分の絵を描けばいいというわけではなくて、コミュニケーション能力を持って多くの人とキャラクターを作っていく、
それが楽しいって感じられる人はゲームのキャラクターを作るという仕事に向いているのかもしれません。
逆に、自分の世界観の中で、ひとりでキャラクターを完成させたいって思う人は、おそらくゲーム会社ではなくて、
ひとりで作業するイラストなどの作業のほうが向いているんじゃないかなという気がします。
自分の世界を前面に押しだしたいという人は、イラストレーター向きなのかなと。
――それでは最後にメッセージをお願いします。
野村:『KHU』は、前作が出て以来、続編を望んでくれるファンの方が多くて、そのおかげで続編を作ることが出来ました。
期待にこたえようとして作ったんですけれど、思いのほか、恐らく期待以上のものができあがったかなと思ってます。
まぁ、自画自賛するのもどうかとは思うんですけども(笑)。自分たちがプレイして「本当にすごく面白いな」と感じられるゲームができました。
前作よりも格段にボリュームも増えてますし、やれることも物すごく多いんで、お待たせした分たっぷり遊んでいただきたいと思います。

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